三井ダイレクト2007年度3月期決算について思う

三井ダイレクトが2007年度3月期決算を発表した。


この1年の収入保険料の増収額は、ダイレクト損保1位のソニー損保とほぼ並んでおり、この勢いだとソニー損保の増収額を来年あたり抜く可能性が高い。

この契約の伸びの背景には、徹底した「品質より低価格」という企業戦略が功を奏したのだろう。
低価格を維持するために、顧客への電話対応を放棄するなど、インターネットに特化してきている。

「低価格」商品戦略というと、少し前に話題となったベストセラー「下流社会」に紹介されていた「日清食品」の所得階層別の商品戦略とイメージが重なってくる。

日清食品の安藤宏基社長は2004年9月中間期の決算発表の場での発言。
「日本人は年収700万円以上と400万円以下に2極化する。700万円以上の消費者向けに高付加価値の健康志向ラーメンを、400万円以下の消費者向けに低価格商品を開発する」

この日清食品の社長の発言の背景には、社外取締役である丹羽宇一郎・伊藤忠商事会長のこんな一言があったそうだ。
「日本の消費者は米国のように所得によって2極化する。低所得層を無視しては、これからの日本企業は成り立ちませんよ」。


考えてみれば、三井ダイレクトを立ち上げた商社・三井物産も「保険業界の吉野家を目指す」といっていた。

「三井ダイレクト」と「三井住友海上」
「年収400万円以下向け」と「年収700万円以上向け」

この「三井」の冠をつけた2つの会社は、所得階層別にターゲットを明確に区別しているとみることもできる。

・最小限の補償を低価格で提供する「三井ダイレクト」
・高付加価値の代理店サービスと手厚い事故対応の「三井住友海上」

2007年2月に三井住友海上が三井ダイレクトへの出資比率を高め、子会社化すると発表した際は、既存の三井住友海上の代理店の反発を予想する損保業界人も多かったが、明確に顧客層を分けているのであれば、既存の代理店の業績への影響はそれほど大きくないのではないだろうか。


話を戻すが「電話対応をしない」三井ダイレクトの具体的な事例がある。

三井ダイレクトでは「ドライバー保険」を2007年6月に発売開始しているが、三井ダイレクトのサイトの右上にある「お問い合わせ」というところをクリックしたところ、「ドライバー保険につきましてはお電話でのお見積もり、お申し込みの対象外となります」と明記されている。

「ドライバー保険」のメインターゲットについて三井ダイレクトは、「新規免許証取得層(大学生・新社会人等のインターネットとの親和性が高い若年層)やライフスタイルの変化により自動車を手放した熟年層等」としている。
これらの人は、一般的にマイカーを所有している人と比較して、保険知識に乏しい人が多いと推測される。
本来、このような顧客層に対して、難しい保険商品を販売するには、対面もしくは電話での商品説明やコンサルティングは欠かせない。

消費者にとってわかりやすくシンプルな保険(たとえば、旅行保険や個人賠償責任保険など)でない限り、たとえインターネット専売商品であっても、正しく保険を理解し、納得して加入してもらうために、電話でも見積りや申込みを受付けることは必要ではないだろうか。

しかし三井ダイレクトは、会社のコストを削減するために、電話での見積り・申込みを受付けず、インターネットのみに特化しているのである。

もし、間違って補償内容を理解したままドライバー保険の契約をしたために、いざ事故が起きても補償されないということが発生しても、何もしてくれない。すべて「自己責任」で片付けられてしまうだろう。


このように、電話対応をやめ、顧客とのコミュニケーション手段をインターネットにシフトしていくのは「安い保険料」を維持し続けるためには不可欠なのかもしれないが、少なくとも自動車保険(ドライバー保険を含む)ではやってはならないことと考える。

インターネット上でのクチコミ情報でも、三井ダイレクトの被害者のクレームが比較的多く見受けられるが、これも「コスト削減至上主義」が事故対応サービスの品質に影響を及ぼしているのだろうか。


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